まえがき。

お茶の水女子大学の理学部情報科学科にて2005年から教員を務める 伊藤貴之 と申します。2024年からは共創工学部文化情報工学科との兼担教員になります。
私はほぼ毎年、オープンキャンパス、学園祭、模擬授業などを通して、高校生・受験生(およびその親御さま)との会話の機会を多数持ってきました。 その機会に皆さまから頂いたご質問等に対する私の回答を、この機会に個人的見解としてまとめてみました。 お茶大情報科学科を受験先候補にしている高校生・受験生の皆さまの参考になれば幸いです。

※本ページの記載内容はあくまでも、個人的見解であり、所属大学や所属学科の意見を代表するものではありません。また、他大学や他分野を志望する方の参考になるとは限りませんので、ご容赦下さい。

本学文化情報工学科について興味のある人は 「お茶大共創工学部文化情報工学科の受験を考えている高校生・受験生の皆さんへ」 もご一読頂ければと思います。

情報科学にするか、他の分野にするか。

私が対話する高校生・受験生の中には、まだ受験先学科を情報科学に絞っていない人も多数います。また、一言に情報科学といっても、どのように進学先を選べばいいのかわからない、という人も多数います。そのような高校生・受験生からよく質問される内容について、個人的見解をまとめます。



学問の縦糸と横糸。

情報科学を志す高校生の皆さんにとって、進路選択で最初に悩む点の一つに、「情報という単語が含まれた学部・学科が多様すぎて、選び方がわからない」という点があるのではないかと思います。私は情報学関係の学部・学科は大きく以下の2種類に分けられると考えています。
  • 情報や計算機そのものを探求する学問
  • 多様な学問や産業に対して数学や計算機を適用して問題を解決する学問
この考え方を私なりに図示してみました。情報という学問は、それ自体を縦方向に掘り下げる学問と、多様な学問に幅広く(横方向に)使いこなす学問に分けられると考えます。このことから私は「情報科学は学問の縦糸と横糸」であると考えています。

お茶大を例にしますと、縦糸に相当する情報科学科は「情報や計算機そのものの原理を深く掘り下げる学問」を担当します。それに対してお茶大では、多様な学問に数学や計算機を適用するための大学全体としての教育が、横糸として機能しています。 さらに、新設が予定されている文化情報工学科は横糸に相当する学科であると考えられます。

このような考え方は海外のいくつかの国で先行しています。例えば情報科学教育に関するアメリカの記事にも、情報科学教育は「計算機科学・データ科学」の2本柱になる、といった論調が多く見られます。「計算機科学」が上述の縦糸に、「データ科学」が上述の横糸に相当します。 日本の大学の情報系学部・学科も、これに似た流れに沿って組織改編が進んでいるものと考えています。

では「縦糸」と「横糸」とどちらを選ぶか…という話になるのですが、私個人的には以下のように考えています。
  • 就職状況の良いIT業界で一線級の仕事をしたい願望がありましたら、迷わず縦糸を選びましょう。
  • 将来の目標はまだ探している途中で、ITの経験をしつつも幅広く学問を眺めたいのであれば、横糸を選ぶのもいいかと思います。
では
  • 学生時代は横糸になって幅広く勉強したいけど、最終的にはIT業界で一線級の仕事がしたい
という欲張った考えがある人はどうすればいいのか…について、このページの後半に述べたいと思います。

理学部か工学部か。

私が高校生の皆さんからよく訊かれる質問の一つに
「理学部と工学部ってどう違うんですか」「情報科学と情報工学ってどう違うんですか」
という点があります。
ごく大雑把にいうと、理学部は自然の原理を学ぶことに主眼を置き、工学部は産業に貢献する技術を学ぶことに主眼を置きます。お茶大の【理学部】情報科学科は、情報系学科の中でも前者に近い体制を有する学科です。講義科目をみても数学や理論の科目が比較的多く、また研究内容をみても数学・物理・生命・言語などの各学問との接点を探るものが多数あります。
参考:お茶大情報科学科のカリキュラム
一方で入学してくる学生も「コンピュータ一筋」という学生だけでなく「情報科学以外の学問にも興味がある」という学生が多く、その意味では相性が良いとも言えます。

その代わりに本学の情報科学科では例えば、「ハードウェアや電子回路の実験」「ゲームの制作」「ネットワークシステムの構築」といった「手に職をつける」タイプの科目は少ないです。そのような実践的な学問を重視したい人には、本学に入学した際には学外にも勉強の場を探すほうがいいかもしれません。私個人的には、企業主催の学生向けの説明会などを積極的に紹介することで、少しでもそのギャップを埋めるべく取り組んでいます。

理学として情報科学を学ぶメリットは、なんといっても「一生変わらない自然科学の真理を学生のうちに体得する」ことだと個人的に考えます。計算機技術は日進月歩なので、数年前に習ったことがもう役に立たない、ということもありえますが、数学や理科を含む自然科学の真理はそう簡単には覆りません。しかも例えばGoogleやAmazonといった先進企業が打ち出してきた情報技術の素晴らしいシステムの多くは、いろんな数学を応用して成立しています。 にもかかわらず、これらの学問には「会社に就職したら学ぶ機会がなかなか巡ってこない」という面があります。このような学問を学生のうちに勉強できるのは貴重な機会であろうかと思います。

なお、本学に新設される文化情報工学科は、工学の中でも非常に異色な、あまり前例のない学科となるであろうと私個人的には想定しています。文学・地理・歴史・芸術などのいわゆる文系の問題を、データ分析技術によって解き明かすことに主眼を置いています。最終的には産業に貢献する学問であるという意味では工学の一種とも考えられるのですが、世間一般な工学部のイメージとは大きく異なることにご注意下さい。私個人的にはむしろ、その点がユニークな魅力となることを願っています。

情報科学のどこが忙しいか。

高校生の皆さんから最も頻繁に訊かれる質問の一つに、
「情報科学科ってどんな風に忙しいですか」 「私でもついていけますか」
という質問があります。
情報科学科の忙しさは、他の理工系学科の忙しさとはだいぶ異質であるように思います。 例えば物理や化学といった実験を伴う学科の多くは、週1,2回(研究室に入ったらもっと頻繁?)は実験や観察のために一定時間拘束されます。 情報科学科ではそのような時間は比較的短い代わりに、「自分の空いている時間に着手して提出しろ」という(主にプログラミング系の)課題が多く出されます。 一言でいうと「時間の融通は利くけど、所要時間が読めない」というのが、情報科学科のかなり特殊な忙しさと言えます。
しかしポジティブに言い換えれば、「要領よく勉強すれば時間の自由度を得られる」という意味でもあります。 そしてその原理は学生時代のみならず、就職してからも(主に研究開発系の職種において)同様な原理が多少ながら成立します。私はそれが情報科学の醍醐味の一つだと思っています。

情報科学科進学者の進路。

女子の素晴らしい就職状況。

情報系企業では技術職社員の80%から90%を男性で占めていた経緯がありました。最近ではその男女比を是正したいと考える企業が増えており、多くの企業が女子学生の採用にとても熱心になりました。そのおかげで、情報産業において女子の就職状況はとても良好です。

情報科学は総じて女性に不利な要因の小さい業界である、と私は考えます。例えば
  • 危険な現場に行く機会や、腕力を要する機会が少ない。
  • 歴史の浅い業界であるがゆえに、男性尊重型の古い文化があまりない。
  • 専門性の高い業種になればなるほど、個人での業務が多くなり、時間の融通が利く。
といった点があげられるかと思います。

このような就職状況のおかげで、2008年にはお茶大が「情報通信系の就職力」で日本一の大学であると報道されたこともあります。
参考:お茶大情報科学科の就職状況

大学院への進学。

情報産業において女子の就職が恵まれている傾向はそう簡単には揺るがないだろうと思いますが、1点だけ注意していただきたい点があります。 お茶大情報科学科に限って言えば、学部卒と大学院卒とでは就職活動が大きく異なることです。 上記のページを見て頂ければ、先進的技術で有名な企業への就職者は大学院卒が多いということがわかります。それどころか企業によっては、学科から就職できる人数が決まっていて、事実上大学院卒しか就職できないということもあります。また年によっては、あるいは企業によっては、同じ企業内でも学部卒より大学院卒のほうが希望の職種に就きやすいという場合もありえます。
参考:大学院進学のススメ

さらに覚えてほしい点として、日本のトップクラスの大学の理工系大学では大学院進学が100%近くを占めている、という点があります。お茶の水女子大学も大学全体では「学部・修士6年間一貫教育」に向かっています。厳しい言い方をすると6年通学するのが原則であり、4年で就職するのは中退の一種という方向に向かっているわけです。

これを読まれている皆さんの中には「なぜ優良企業に就職するのがいいのだろう」と疑問に思われる人もいるかもしれません。 一般的な傾向として、優良な企業・人気ある企業は、待遇や環境にも恵まれていて働きやすい企業が多く、また優秀な同僚にも恵まれて自分を磨く機会も増えるかと思います。さらに、30代・40代になって転職することがあったとしても、優良な企業で働いたことがあるという経歴が転職の武器になることもあります。優良な進路選びは長い人生全般にかかわるものであり、大学院進学は優良な進路選びの可能性を高めるための有効な投資であると考えて下さい。

具体的にどこに就職するか。

「どこに就職する人が多いですか?」という質問も、よく受けます。 あくまでもお茶大での事例にすぎませんが、再び、こちらのページをご覧ください。

参考:お茶大情報科学科の就職状況

ここには数年間の学生全員の就職先が列挙されていますが、大きく分けると以下の3つが典型例と思います。
  • IT企業や通信企業で研究者・技術者になる: 例えば銀行・運送業・コンビニやスーパー・交通機関といった企業が運用するコンピュータシステムを個別に構築する。あるいは電話などの会社でサービス技術を構築する。
  • 各種メーカーで研究者・技術者になる: 例えば電機・自動車・光学機器などのメーカーで製品をつくったり、出版などの業界で新規技術を開発する。
  • 会社員以外の職種。中学や高校の教員あるいは公務員を目指す人もいれば、大学などに残って研究者を目指す人もいる。
お茶大以外の大学の情報系学科においても、IT企業・通信企業・各種メーカーが最も典型的な就職先、という傾向は大きくは変わらないと思います。

蛇足ですが、お茶大情報科学科は総じて手堅い就職活動をする学生の割合が高く、企業に就職する大半の学生は、大手の技術系企業で研究者や技術者になります。いわゆる文系就職に進む学生は非常に少なく、またベンチャーなどを起業する学生も非常に少ない傾向です。他の大学の情報系学科では、文系就職や起業などがもう少し多いかもしれません。

エンタテインメント産業への就職。

個人的に高校生からよく聞かれる質問の一つに、
「映画・音楽・ゲームなどのエンタテインメント産業に就職できますか?」
という質問があります。
これらの企業の中には、作品自体を制作するアーティストやプロデューサなどの職種と、制作の土台を支えるエンジニアなどの職種があります。本学情報科学科からエンタテインメント産業に就職した卒業生は少数ながらいます。基本的にはエンジニアとしての就職が前提であると理解して下さい。アーティストやプロデューサになりたいのなら他大学を探したほうがいいです。
余談ですが、エンタテインメント産業に関係あるコンピュータグラフィックスやオーディオなどの技術は、想像以上に数学と物理のかたまりで構成されています。本学からゲーム会社に就職した学生は基本的に数学やプログラミングなどの基礎能力が優れた学生です。ある有名なゲームデザイナーが 我々はゲームの好きな学生が欲しいのではなく、ゲームを作れる学力のある学生が欲しい と言っていました。結局のところ、このような産業への就職は、数学やプログラミングを頑張るのが早道の一つということになります。

何を学ぶべきか。

高校生・受験生の方からは「何を頑張ったらいいですか」という質問も多く聞かれます。結局は「数学」「プログラミング」といった単純な回答になってしまうのですが、その背景について少し詳しく述べます。

数学。

情報系学科に進学する学生にとって、数学は高校時代から就職後にいたるまで、常に重要な科目です。その理由のいくつかを以下にまとめます。

大学受験にて: 一般的に情報系学科の入試には数学があります。数学は知識と経験を積み上げるように勉強する科目であり、一度つまづくと追いつくのに大変な労力を要します。また他の科目と比べて点差が開きやすい科目でもあります。大学受験での成功に向けて、数学は常に努力を積む必要がある科目です。また本学の入試では、微分積分・数列・ベクトル・統計などが非常に重要な位置を占めていることから、高校数学全体にわたる勉強が重要となります。

大学入学後の授業科目にて: 情報系の専門科目には、数IIIや数Cなどを含めて、高校数学を全て履修したことが前提になる科目が多数あります。大学によっては高校数学の一部の履修が抜けていても補足措置をとる場合がありますが、それにしても、高校時代に数学を全て履修していないと、大学入学後の授業に関して理解が限定的になってしまいます。

大学院受験にて: 将来研究者を目指す人にとって大学院進学は必須です。それ以外の人でも、少なくともお茶大では、IT業界のトップ企業に就職して一線級の仕事をしたいなら、大学院の情報科学コースへの進学者が圧倒的に有利です。そして大学院の情報科学コースの受験にも数学の筆記試験があります。この筆記試験は、高校時代に数IIIや数Cを含めて数学を一通り勉強し、さらに大学入学後に一定のレベルの数学科目を履修したことが大前提となります。

就職後にて: 近年の情報技術は高度化しており、研究者のみならず、ITエンジニアやデータサイエンティストといった職業の人にも、専門書や論文を読んで理解して自分で使いこなす必要のある場面が増えています。情報技術の専門書や論文は数学力が前提となっているものが多く、これを理解できないと仕事にならないことも一線級の現場では起こりえます。

以上の例を見ただけでも、情報系業界で一線級のキャリアを積むためには、高校生時代から就職後まで、全ての段階において数学が絡んでくることがわかるかと思います。

さて、このページの冒頭で、「学生時代は横糸になって幅広く勉強したいけど、最終的にはIT業界で一線級の仕事がしたい」という人はどうすればいいでしょう?という話を書きました。ここまで読めば答えは自明かと思います。他の学問との融合的な学科に進学する場合にも、数IIIや数Cなども含めて、全般的に数学を頑張るのが一番の解決策です。お茶大に関して言えば、大学院の情報科学コースに進学することがIT業界の一線級の仕事に就くための王道コースであり、そのための数学・情報の基礎学力をつけることが必要不可欠ということになります。

プログラミング。

情報系の学科に進学するとプログラミングは必修科目になります。大学では一般的に、初心者のためのプログラミング科目が充実しています。よって、高校生のうちからプログラミングに全力を投資する必要はありません。一方で情報系の学科に入学したら、本当にプログラミングは重要です。例として以下の理由をあげておきます。

大学入学後の授業科目にて: 多くの情報系の学科では、入学したら週1回程度のプログラミングの必修科目があります。ただしプログラミングを使う機会はそれだけではありません。普通の授業科目でもプログラミングが宿題になる科目はたくさんあります。プログラミングができないと多くの科目の単位を失いかねません。

研究室選びにて: 情報系の学科でプログラミングを全くやらない研究室はごく限られています。プログラミングが嫌いになってしまうと、研究室や研究テーマの選択肢が非常に少なくなってしまいます。

インターンシップ・就職活動にて: 一線級のIT企業の中には、インターンシップや就職活動の面接でプログラミングを課する企業が増えています。一定時間内にプログラミング課題を解けないとインターンシップや就職採用の内定を得ることができないことがあります。

就職後にて: 当然ながら多くの人はプログラムを書く職業に就くかと思いますが、IT業界の中には「自分ではプログラムを書かない」という職種もあります。しかし「書かない」からといって「書いたことがない/書けない」のが問題ないというわけではありません。自分でプログラムを書いた経験がないと、プログラムを書く職種の人と適切な会話ができません。

お茶大にするか、他の大学にするか。

お茶大の受験に関して、偏差値や倍率、試験問題の傾向などもよく質問されるのですが、ここではそれ以外によく質問される内容について個人的見解をまとめます。

女子大。

私が観察する限り、情報系学科の志望者は「もともとコンピュータが好きだった人」「これからコンピュータおよび情報科学を勉強したい人」に大きく分かれるように思います。そして(女子大であることと関係あるかわかりませんが)本学情報科学科では後者の比率が高いような気がします。
そして実際に入学した学生の証言として「コンピュータの勉強は男子と女子でやり方が違う気がする」という話をよく聞きますし、また「初心者のうちは女子どうしのほうがわからないことを質問しやすい」という話もよく聞きます。 最近のIT業界では女子限定の勉強会やプログラミングイベントが非常に盛況であることを考えると、本学の学生以外にも同様に考えている女子学生は一定数いるだろうと思います。

これらを総合すると、本学科は「これから情報科学を勉強したい女子」にやさしい環境と言えるかと思います。私の感覚でも、これは間違いないと思います。
逆に、「寝ても覚めてもプログラミングのことばかり考えている」とか「ゲームが大好きなので将来は絶対にゲーム制作者になりたい」というような、ピンポイントな知的欲求を満足させようと思ったら、本学の中に閉じこもらずに、学外にも知識や知人を求めるとさらにおもしろくなるかと思います。

いずれにしても、本学に入学したら、学内ではもちろんのこと、学外にも勉強の場を求めることは重要かと思います。例えば情報系企業でのアルバイトやインターンシップ、学外でのプログラミングコンテストなどに興味を持って下さい。学外に出れば情報産業は圧倒的に男性多数な業界であり、コンピュータや情報科学が好きで好きでたまらない人に出会って刺激を受けることができます。またこれらへの参加によって、本学で習わないような多くの実践的知識と経験を得ることが可能です。そのような点をぜひ、学外で積極的に体感して下さい。

一方で前述のとおり、情報産業は女子学生の雇用にとても熱心ですし、情報系の学術機関も女子学生の活躍を熱心に支援しています。 そして、情報系の女子学生と接触したければ女子大学に接触するのが最も簡単です。 その結果としてお茶大の情報科学科には、 ありえないくらい多くの組織から、セミナーや合同勉強会、インターンシップをはじめ、さまざまな取り組みへのお誘いが集まってきます。 これは本当に恵まれた環境であると思います。

もう一つ重要な点に日常生活があります。情報系学科に進学するとしたら、男子が圧倒的に多い学科に進学するか、女子大に進学するか、両極端な選択が待っています。女子大に進んだら当然のように、女子にとって住み心地のよい空間と、多くの女子が興味をもつ日常会話 が待っています。他大学の女子学生がお茶大に遊びに来るたびに「お茶大がうらやましい」という話をよく耳にします。 これがどれくらい自分にとって重要なことであるか、という点も一度お考えになるとよいでしょう。

少人数教育。

お茶大は少人数編成で親身な教育をセールスポイントにしています。 本学の情報科学科は定員40名で、他大学の情報系学科と比べてだいぶ小規模です。
私はこの学科に就職して驚いたのですが、ちょっと出席率や課題の出来の悪い学生がいると、すぐに教員の間で話題になり、対策を議論します。とても思いやりに満ちた体制です。大きな大学では、そこまで1人1人の学生に対して早急に気にかけてくれるのは難しいのではないかと思います。 言葉は悪いかもしれませんが、落ちこぼれにくい安全な体制という意味で本学の情報科学科は実に優れていると思います。これこそ少人数編成らしい特徴ではないかと思います。

同じことは大学院進学後にも成立します。人数比で考えるとかなり高い確率で、受賞や留学などの経歴を手に入れられます。これも少人数編成の賜物ではないかと思います。
参考:本学大学院・情報科学コース&情報科学領域について

※ただ、学内すべての場面で少人数教育が成立しているとは限りません。例えば私は履修者100人程度の大規模な講義科目を持ち、研究室では教員1人で(社会人学生をあわせると2014年度現在)学生25名を指導しています。だいぶ例外的な状況ではありますが、とても少人数教育とは言いがたい現状のように思います。

多様性。

本学情報科学科の1学年40人を眺めただけでも、男子がいない、ということを除けば実に多様な学生が集まっています。コンピュータマニアもいれば初級者もいますし、現役生もいれば浪人生もいますし、自宅生もいれば地方出身者もいます。お茶大が第一希望じゃなかった人もいます。
いずれにしても、「私みたいな学生は他にいないのでは」みたいな心配は一切不要です。

一方で、大学志望の理由にも多様性があっていいと思います。 よく「どこの大学に入学するより、何をやりたいかが重要だ」という人がいますが、 一方で大学のカリキュラムの多くは「何をやりたいかは入学してから探す」というスタンスでも構わないように構成されています。そういう場合には例えば 「女性リーダー教育が活発だから」「都心に通学したいから」「在学中に留学する人が多そうだから」 といった動機も、本学への立派な志望動機と考えてよろしいかと思います。

その他。

本学情報科学科は大学に入学した時点で学科が決まっています。 東大の理科一類や慶應の理工学部のような、学科は入学してから選ぶ、というシステムではありません。 どちらが好ましいかは人それぞれであろうかと思います。ただ私の感覚からいって、 「絶対に情報系学科に進学したい」という強い意志がある人、あるいは 「情報系学科に進学したいけど、自信がないので1年生のうちから時間をかけて専門科目を学びたい」 という人には、本学のように入学した時点で学科が決まっているシステムは好都合かと思います。

研究室配属について。

研究室配属は理工系学科に進学してからの最大のイベントでもあります。 最近では高校生のうちから研究室配属に興味をもつ人が増えていて、非常に喜ばしい限りです。 伊藤研究室については以下をご参照下さい。

参考:伊藤研究室への配属志望学生の皆さんへ
参考:伊藤研究室のプロジェクト
また伊藤研究室には博士後期課程への進学者(ただし社会人学生が多数ですが)も多く、2014年度現在(研究室発足10年目)で11人が進学をしています。
参考:博士後期課程進学に興味をもつ伊藤研関係者の皆さんへ

研究室配属前 研究室配属後
授業を聴く 研究成果を話す(発表する)
課題や試験を解いて
所定の書式で提出する
課題を自分で見つけ、
解決法を自由に示す
教科書を読む 論文を読むだけでなく自分で書く
時間割にしたがって行動する 時間の使い方を自分で決める
研究室配属は、ある意味でそれまでの学生生活を逆転するものです。 そして自分にしかない成果をあげ、一生役立つスキルをつける、 という意味で大学生活の中でも特に大切な時期といえます。

そんな研究室生活に高校生のうちから興味を持つのは、本当に喜ばしいことです。 ただ、あまりにも特定の研究室「だけ」に興味を集中するのではなく、広い視野も同時にもって頂けたらと思います。主な理由を以下に書きます。

研究室以前に勉強することがたくさんある。

皆さんは大学で学科に属すると、その学問に関する幅広い講義科目を履修します。 研究室に配属になると、その学問のうちの一部の分野に的を絞って、研究に従事します。 といっても、研究に従事したらその分野のことだけを知っていればいい、とは限りません。 研究には他の分野の知識が必要になることも多々あります。 つまり、自分の興味のある分野だけでなく、学問全体について興味を持って勉強を進めることが、 自分の研究を進めるためにも大いに役に立ちます。

余談ですがお茶大情報科学科では、3年から4年に進級するときに研究室に配属になります。 最近の理工系学部ではもっと早く配属になる例が増えています。 どちらがいいかは一長一短の関係にあります。
ただ知っておきたい点として、アメリカの有名大学には「学部卒業研究はナシ、研究は大学院に進学してから」という大学も多いですし、国内でも例えば東大の情報科学科では実質的な研究を始めるのは4年の後期から、という事実があります。 私が観察する限り、名門大学では時間をかけて基礎学力をみっちりつけてから研究に着手する傾向があるのでは、という気がします。

また例えばお茶大情報科学科の場合、情報科学科出身者でないと採用されないような就職をする人が非常に多いですが、一方で「A研究室で卒業したけど、企業に就職したらB研究室の分野で仕事をしている」という例も非常に多くあります。言い換えれば、卒業生には特定の研究分野に限らず、情報科学を広く勉強してきたことが期待されている場合が多いとも言えます。 つまり、在学中だけでなく就職後のことも意識して、情報科学という学問全般を幅広く勉強することが望まれます。

希望の研究室に必ず配属できるとは保証できない。

大抵の大学において、研究室には定員があります。希望者の多い研究室には定員オーバーで配属できなかった、ということが起こりえます。私も何度か、希望者が多いために数人をお断りしたことがあります。
ちなみにお茶大情報科学科では、教員1人あたりの平均学生数は3.5人程度なのに対して、定員は最大5人、という緩い枠が設定されています。それでも第一希望の研究室に入れない学生は1学年あたり数名います。
また、皆さんが大学に入学して研究室に配属する頃までに、希望の研究室がなくなっていた、という可能性もないわけではありません。
以上により、希望の研究室に必ず配属できるとは保証できません。それだけを目標にしていると、その研究室に配属できなかったら目標を失ってしまう、ということになりかねません。


最後に。

先生にメールしてみよう。

多くの大学の先生はメールアドレスを公開しています。 志望校を調べていて疑問なことがあったら、大学の先生にメールを書くなどして直接連絡して構いません。 「こんな初歩的なことを質問したら失礼では」なんて遠慮する必要はありません。
多くの先生は高校生や受験生からの質問の連絡を喜ぶでしょう。 逆に、その連絡に対して返事のない先生や、対応の悪い先生は、きっと入学してからも同じような態度をとることでしょう。 大学の先生に連絡を取るという行為は、皆さんが大学の先生を審査する機会と考えることもできます。

ご家族の皆さまへ。

オープンキャンパスの研究室公開や、学園祭の模擬授業などで、ご家族連れでいらっしゃる方々が最近とても増えています。私はそれをとても喜ばしいことだと考え、深く感謝する次第です。
現在の大学は20年前や30年前、お父様やお母様がご在学中の大学とは、まるで違うものになっていると私は考えています。現在の大学がどのように変わっているかをご家族で体感してくださることで、受験生の皆さまご自身による正しい人生の選択を応援してくださることを期待しています。